外国製の鉄道模型をコンパクト・デジ・カメで撮る<私流・正しいコン・デジの使い方> 不定期創刊号
今どきのデジタル・カメラの機能や性能は『スゴイ!』としか言いようがない。デジタル製品は進化が速いうえ、周辺機器とフレンドリーな関係もまた、平然と裏切って新登場などアタリマエの世界である。デジタル商品はカメラに限らず途方も無い消耗品なのだ。孫の代まで使う必要はない。システムも変化していくので、その時に間に合えば善し、という使い捨て社会の対応機器なのだ。それが正しい選択かどうかを考える時間もない慌しく忙しい環境に拍車をかける。中でもデジカメはそんな環境でいちばん身近な最新機器のひとつだろう。いとも簡単に、「当面はこんな調子で十分間に合う」写真が撮れる。プリンターは家庭用複合機だが、デジカメとセットになる道具として考える。最大A4サイズで美しいカラー写真が1~2分で刷りあがる。そんな作品をこのフォトサロンに展示する。
デジタル写真は映像の加工や合成も面白い。誰もが一度は挑戦したくなるが、本格的に取組むと誰の写真も同じ雰囲気になって、面白味に欠ける。なぜだろうと写真家に尋ねたら、グラフィック合成や加工に同じソフトを使うからだという話だった。でも、絵具は同じでも個性的な絵画は星の数以上にあるけど、ま、いいか。
ボクはカメラの液晶モニターの情景が「まるで絵画のようだ」と感じたらシャッター・ボタンを押す。デジカメではカメラの特徴が個人的嗜好とマッチすることが重要なポイントに思える。オートマチック機能は基本的に使わない。映像や画質が平凡でつまらないのである。むしろ、接写機能や広角機能の有無が重要ではないか。ホワイト・バランスで調整した方が面白い例がボクの場合は少なくない。
他にも撮影条件がある。カメラのフラッシュは使用せず、全てガラス戸からカーテンごしに入ってくる自然光と、建てた時からついている室内灯だけに限定。当然、天候や季節、時刻などによって明るさは常に変化する。これが意外と面白く、スリリングな映像になる。天候によっては白夜の明りで撮ったような色調に驚き、思わず感動したりする。
ヨーロッパを旅行して気がつくのは、空や街の明るさがその地域などでまるっきり違って見えることだ。地中海の明るさは北欧の明るさと大きく違う。夏のモスクワで感じる白夜の眺めは、ブリュッセルやパリで感じる明るさともガラッと違うのがよく判る。そこで気付いたのは、写真を撮るということは、「光と影、風や薫り」などをレンズに焼き付けることではいか、ということだ。
撮るのは基本的に欧米型のHOスケール・ゲージの車輌で、自作のジオラマやレイアウトの架空世界が舞台。馴染みの薄い外国の鉄道車輌を選択したのは、好奇心をくすぐるからだ。僕自身の快感であり、観る人を架空世界に誘うのが好きだから。
観る人を線路際に立たせるような映像が10年以上も前のデジカメでも撮れる。車輌のデイテール表現はさすがにHOスケール(実物1/87、16.5mmゲージ)だけあって、接写でもホンモノの機関車のように見える…、というより「ホンモノのように見せる」ことが重要なのだ。迫力をお楽しみいただければ愉快。
▼下の写真は薄汚いカラー・ノイズが煤とオイルで汚れた印象に見える例。このSLはSP(Southern Pacific)鉄道のAC―9型のHOゲージ。ACシリーズの中で唯一石炭炊きであったが、廃車直前にオイル炊きに改造。模型もテンダーはオイル方式に なっている。1963年にカツミ模型がアメリカ向けに輸出したブラスモデル。現在は稀少製品だ。アメリカのインポーターはMax Grey。日本で末塗装完成品を手に入れ、半世紀もかけて塗装して仕上げた。ライト類はすべてダミー。ギア・ノイズが極めて静かである。
何度も塗り直している。ラッカーやリキテックスなどを混ぜて、何度も剥がしたり重ね塗りをした。ドライ・ブラッシュの筆使いである。
キャブ側の第2シャシーは実物同様、ボイラー下部に固定されている。通過半径は最低でもR750ミリ。模型と言えども急曲線を走る機関車ではない。現在も快走するがモーターは日本製に交換。巨大で豪快なイメージだが、ボイラー上の蒸気溜めやサンド・ボックスなどを一本のライン状にデザインしたセンスはオシャレである。
鳥の目線で「AC―9型」を見る。テンダーがオイル焚きに改造された後期仕様。このHOレイアウトの曲線では通過できない。単機で直線を往復運転するだけではあるが、ロッド類がゆっくり動く眺めは流石に巨人機の風格。
▲大きな曲線でじっとこちらの様子を伺っているSL。初めてデジカメで撮った映像である。屋内のレイアウトで撮影。逆光でメリハリのある雰囲気はフランドル派の画家フェルメールの古典絵画に似て、最も気に入った作品。
下はベランダで自然光だけで撮った同じSL. Y―3b型(2―8―8―2)。PROTO 2000ブランドの巨人機だ。同じHOゲージの模型機関車でも撮影環境で雰囲気や印象がこんなに異なる。先頭部を接写した映像にドラマ性がない。しかし、漂う品格はオーストリーのロコ製の臭いがプンプン。素材はプラ&ダイキャストの合成。スーパー・ディテール仕様。手元のは初版製品だが、再生産から中国製に変わった。オーストリーの「Roco」社が内紛で倒産したからだ。
▼同じ場所に「単機回送」でやってきたアメリカの大型DLを撮る。明るい自然光で撮ったがドラマ性や雰囲気はどこか楽しい。ナンバー・ボードと、ヘッドライトは点灯。デッキ下のディッチライトはスロー走行時は左右点滅状態になる。このギミックが当製品の「売り」である。DCCシステム対応DC サウンド装置搭載。
「GE DASH 8―40 CW,型」は本線で長距離貨物列車を牽くが、このシチュエーションは補機として現場に到着したところを狙った。模型は2005年のATLAS 製プラ素材の限定HOゲージ製品。同社製品ではワン・ランク上位のスーパー・ディテール仕様。手摺などはKATO製品よりも細く、デリケートだ。入荷当時の価格は4万円前後
▲ヤードで休む「SF鉄道GE DASH 8-40 CW」型 眩しいまでの明るさに見えるが、光の回り方は手前のクルマや道路とそれぞれ異なったアクセントになっている。我ながらほれぼれする映像だ。路面からの照り返しと3台の自動車の立体感が見事に情景の奥行きを表現。乾き切った空気と透明感が見せ所である。
▼SF(SANTA-FE)鉄道のDASH 8-40型は、SP(Southern Pacific)鉄道の機関車に挟まれて、これから混合数重連で山を下るのだろうか。
▲友人から譲り受けたコニカ・ミノルタDiMAGE X1は使いやすかったが充電式バッテリーは消耗が早くなってしまった。写真は「Y3b 2011号」。照明は室内灯がボイラー斜め上に点灯するだけ。ピントも絞りもイマイチであっても、ヤードの空気と頬を撫ぜる風が狙える。明るいブルーのピック・アップトラックが画面をピシッと決めている。こうした小道具やアクセサリーがドラマを演出する。
何を撮るのか
何を伝えたいのか
少なくとも、写真を見せて相手を驚かせたいという初心を忘れずに技を磨くのは、大切な心掛けである。
漫然とシャッター・ボタンを押しても写真は撮れる。写真の評価は個人の感性が決めるが、本人が「面白い」「感動した」「カッコイイ」と納得すれば、よい写真だ。
▲SPのGE C44-9 型 8129号 KATO製HOスケール製品。カメラを路面において接写すると、実機はこんな雰囲気に見えるかも。
▲上:PFM=PACIFIC FAST MAIL=UNITED合同(ATLAS=ASAHI/日本製)ブランドのブラスモデル。1970年代製品。日本製ブラスモデルがアメリカ市場を席巻していた頃の手作り真鍮模型。C&O鉄道「KANAWAH 2760号」
下:同じタイプでニッケル・プレート鉄道では「バークシャー型」と称した。772号は特定ナンバー。ヘッドライトの上に列車識別マーズ・ライトを点灯させている。スロー走行で赤色点滅。DCカンタム・サウンド搭載済みで2006年に売り出した中国のプラ製品(PROTO 2000ブランド)、アメリカの通販価格で最も安いショップでは1万円を切る信じ難い価格設定だった。
▼線路際に立つような感覚で爆走する列車を待つ。
▼世界最大のSL,である。愛称「BIG BOY」。UNION PACIIC鉄道の巨人機は、世界の多くのメーカーが模型化に挑戦した。写真はドイツのメーカーTRIXが2003年に売り出したダイキャスト素材のHO製品。しかし、不思議なのは視点によって、まるで別物に見えることだ。スケール・サイズはほぼ正しいにも関わらず、にである。
これって、「BIG BOY」に見えない。なぜだろう。ところが眺める位置によって、ホンモノの「BIG BOY」に見える。▼この写真を見よ。実物は見たことはないが、ヴィデオやDVDでは飽きるほど眺めてきたし、実物写真アルバムや図面だって持ってる。過去のHO模型では、最後だと言われたRivarossi ブランドが実機にいちばん近いとマニアは言う。
この位置で見るTRIX「BIG BOY」は雰囲気が素晴らしい。ピンボケ効果で舗装路の熱気が伝わってきそうだ。カゲロウに映る姿にも見えてドラマ性を感じさせる。
▼こちらはRivarossi の初期「Big Boy」。ユーザが手を加えウエザリング塗装。当時は大きな棒型モーターがキャブの中まで突き出していた。2機とも同じナンバーだが、下の製品は後から発売されたものにウエザリングをやり直している。ベランダで別の日に撮影した。
電機・電車には原則的に架線は省略すべきではない。
▲ペーパー車体の専門メーカー「ロコモデル」の西武線。」16番ゲージ。日本ではレイアウトの普及が遅れたことも有りそうだが、電化区間に架線を張る楽しさが育たなかった。張れば架線集電のイメージに拘る。しかし、欧米では架線付きレイアウトはダミーが圧倒的ではないかと専門誌を観て感じる。電流は見えない。だから通電は評価の対象にならない。けれども、架線は視覚の対象なのだ。情景の一部として存在する。しかし、日本ではこうした考え方は今も未熟なままである。撮影すると、架線はこんな雰囲気だ。
▲16番ゲージの飯田線を撮ってみた。架線があると無いでは雰囲気は全く違う。架線と架線柱はドイツのフィースマン製。架線柱は日本型ではないが、架線の有無が問われている。
▼アメリカ・ヴァージニアン鉄道のE―33型。重連で石炭輸送に活躍した。
製品はBachmann 2003年新製品。プラ量産型。架線通電の切り替えはあるが、通常、ダミー架線と対応できる頑丈なパンタグラフがついておれば十分。2両以上の重連運行なので、ユーザーには2両以上の御買い上げになる。
▲さしずめカラスの目線で眺めると、こんな雰囲気か。台車にウエザリングを施して少し目立つようにした。撮影のアクセントになって
▲ドイツ鉄道の近郊型電車。ロコ・モデルの2002年製品だが、この4車体は永久連結で化粧箱に納まっており、大人がひとりで出し入れするのに苦労する。ここまでくると悪乗りではないか。
▲オーストリー国鉄標準機 1044型。ロコ製品。何度も再生産され、その度に細かな改良が加えられてきた。パンタグラフはダミー架線対応で頑丈。
▲オーストリー国鉄1020型、架線付きのポイントを通過。架線に押されたパンタグラフがフアン、フアン・・・と上下に踊る。この様子がタマラナイ。模型の架線はかなり太くて頑丈である。但し時々張りの調整作業も必要。
▲ドイツ鉄道のガラス張り観光電車「ET 91-01」。プライザー製の乗客を乗せて売り出して話題をさらった。写真は1985年のロコ製品。まだ、我が家では走っている。しかし、さすがに塗装は色褪せた。